映画、本、NBA、金融……週休5日で働く元経済紙記者が気ままにつむぐ雑記ブログ

KDのケガから今まで、そして八村君の長くて大きい手

KDのアキレス腱断裂からいろいろあって……

 昨シーズンのプレイオフ途中から、更新しないまま日数がたってしまっていた。この間、KDのアキレス腱断裂があり、クレイの左膝前十字靭帯断裂があり、ラプターズNBA初制覇、KDの移籍、イグダーラの放出やショーン・リビングストンの引退、クックほか多くの選手の移籍によるウォリアーズの抜本的なチーム構成の変化など、いろいろなことがあった。そしてもちろん、八村君のウィザーズ入り(1巡目9位指名!)、中国で行われたバスケットボール世界選手権、2019ー2020年シーズンの開幕と八村君のNBAデビュー、ステフの左手骨折など等々々etc.etc......本当にいろいろあった。他チームに目をやれば、数々の有力選手の移籍により、クリッパーズやらレイカーズやら、ロケッツやらネッツやら、数々のチームのラインナップが大幅に変わり、超有力チームみたいなものがあちこちに勃興した(ステイプルズ・センターで行われたレイカーズクリッパーズの開幕戦は、迫力あったなぁ)

 本当に書きたいことがてんこ盛りだったのに、何もかけないうちに多くのことが過ぎ去ってしまったなぁと思う...。

 そうそう、NBAの外に目を向けても、ラグビーのワールドカップもあったし、井上尚弥とノニト・ドネアのWBSS決勝(つい一昨日のことだが)はじめ、それはそれでいろいろあったなぁ。いやー、昨今のスポーツシーンは本当に飽きない、というか感動させられっぱなしだ。

スケールの大きさを感じさせる八村君のプレー

 ひとつだけ。八村君のプレーに、意外なスケールの大きさを感じた。あれ? と思った。それに、ウイングスパン長いなー、手大きいなと、今さらながら(笑)よく知られたことではあるけれど、これはけっこう大事なことだと思う。

 そして、もうひとつ。ワールドカップの時も思ったけれど、彼のプレー中のシルエットが、ある超人選手(神とは書くまい)に瓜二つの瞬間が時たまあって、目を何度かこすってしまった。あれ? あれれ? NCAAでも少しみていた気でいたが、大学時代の彼のプレーをそれほどしっかり見ていなかったということなのか?

 彼に、ザック・ノーベルJrみたいな、俺が俺が、どんどんいっちゃえ、みたいなところがあれば(実はあるのかもしれないが)また別なのだが、おそらく彼はそうしたタイプのプレーはまだまだしないだろうし(そのうちしてほしい)、チームから求められている役割というものがいろいろあって、彼はそれを忠実にこなそうとしているところだろうし(チームのファーストオプションだった大学時代とは違うだろう)、ということで、長い目で見させてもらうのが一番なんだろなーと思う。

 頑張れ、塁君! 虎になれ、Rui!

 

 

ファイナルは、2つの熱狂的なコートでの戦いに

 今日から、いよいよNBAファイナルが始まる。カードは周知のように、ウォリアーズ対ラプターズだ。

 バックス、ラプターズに負けちゃったな。。いや、確かに選手としての成熟度はレナードのほうがアデトクンボよりずっと上だと思ってはいたが、アデトクンボにはこのシリーズ中も爆発的に成長する余地があると思ったし、何より、周囲にいいロングレンジシューターがそろっていたから、いけるかなと思ったのだが。。ラプターズのチーム力の方が上だったんだろうな。

 正直、ウォリアーズのシリーズと違って、ラプターズ対バックスのシリーズは、ライブでみる時間がなかったので、よくは把握していない。が、トロントはおそらくディフェンスも超絶よかったのだろう、きっと。

 今回、ホームコートアドバンテージを取ったのが、ラプターズの方だというのが少し心配だが、まあ、ウォリアーズの強さはそういう次元を超えたところのものだと思うので、大丈夫だろう。大丈夫であってほしい。大丈夫でありますように。

 トロントのホームコートであるスコシアバンク・アリーナは、ウォリアーズのオラクルアリーナと同じく、ファンが熱狂的なことで知られる。あの、ビンス・カーターがキャリアの初期に超絶ダンクで沸かせていた旧エアカナダ・センターだ(確か)。

 ウォリアーズのスティーブ・カーは今日の会見で、自分がTV解説者だったときに特別なコートが二つあり、それがスコシアバンクとオラクルだったと言っている。両方ともファンが熱狂的で、バスケットボールを愛しているのが伝わってきて、とても刺激的なアリーナだと、確かそんなようなことを言っていたと思う。願わくば、ウォリアーズが双方のアリーナからポジティブなエネルギーをもらい、3ピートできますように。

 まあ、レナードも好きなのだが、やはり、ウォリアーズのチームケミストリーが機能するところを見たいのだ。Strength in Numbers ! そして、それとは対象的に、カリーやトンプソンの神がかった連続3Pやクラッチシュート、グリーンの素早いトランジションからのファストブレイク、KDの1on 1が見たい、というのもある。

 KDと言えば、今回のトロント遠征に同行しているようなので、どこかのタイミングで復帰するのだろうか。

KD不在の中、ウォリアーズが5年連続でファイナル進出

 先週の今頃、NBAのプレイオフもクライマックスに近づいてきたなー、KDの離脱はあるものの、最終的にファイナルに出てくるのはウォリアーズとバックスだろうなー、などということを徒然なるままに書いた記事をアップしようと思いながら、なんとはなしにそのままにしていたら、早くもウォリアーズがポートランドをスウィープしてファイナル進出を決めてしまった。

 KDの離脱は大きな痛手だが、彼がチームに加わる以前のスタイル(すでに2度のファイナル進出と1度のチャンピオンシップを獲得していたときのスタイル)を思い起こせば、スプラッシュ・ブラザーズとグリーンを中心になんとかするんだろうなと思ってはいた。そして、実際にそうなった。

 しかし、そうは言っても、今季のチームも、カリーらとともにKDを中心にしてつくったチームであり、実力や影響力からいってもKDの存在はウォリアーズにとって欠かせないはず。KDが離脱したロケッツ戦から6連勝している今でもそう思う。カリーやグリーンが勝利後のインタビューのたびに、「KDやデマーカスが戻ってくるのを待っている」と言っているのは、ことデュラントに関しては、気遣いだけで言っているのではなく、本気で望んでのことだろう。

第4戦で決める気マンマンだったウォリアーズ

 さて、今回、スウィープでファイナル進出を決めたことで、ウォリアーズは、ファイナル第1戦が行われる5月31日(現地時間)まで9日間ゲームがオフとなる(練習はするだろうから)。グリーンも、ケガ人などが回復の時間にあてられるようにするためにも、ポートランドをスウィープしたいと言っていたが、チームとして、まさにそうした思惑が大きなモチベーションになっていたのだろう。実際、ウォリアーズは第4戦、8点ビハインドの4クォーターにカリーとトンプソンを前のクォーターから続けて先発起用し、このゲームでシリーズ勝利を決めるんだという姿勢を前面に出していた。仮にこのゲームに負けてもまだ余裕はあるのだが、流れがややポートランドに傾くことになってシリーズが1、2戦分でも長引けば、ファイナルを前にして選手たちのさらなる負担になってしまうと考え、嫌がったのだろう。(ヒューストンとのシリーズでは、第3戦でイージーなミスもあって接戦を落とし、少しシリーズの流れが変わった。実際、プレイオフではよくあるケースだ)

 そんな中、グリーンの集中力が半端なかった。トンプソンのディフェンスも凄まじかったし、イグダーラも第4戦は欠場したものの、ディフェンスのみならずオフェンスでも存在感を示した。そして、カリーはやはりカリーだった。。

KDの怪我から使われ出したベンチメンバー

 しかし、このシリーズである意味新鮮に映ったのは、ヒューストンとのシリーズ最終戦から起用され始めたベンチメンバーだ。KDが怪我で離脱したヒューストンとの第5戦までは、ゲームで起用されるベンチメンバーといえば、主力クラスのイグダーラのほかは、ルーニー(貢献度から言ったら、主力に次ぐクラスと言えるかも)、リビングストンやマッキニー、要所要所でボーガット(たまに先発)、たまーにジェレブコといった感じで、クックやベル、エバンス、リーなどはほとんど出場機会がなかった。(クック以外は皆無だったのでは?) 

 クリッパーズとのシリーズを含めて競ったゲームが多く、気を抜けない中、主力選手に頼る時間がどうしても長くなったということなのか。反対に、KDやカリー、トンプソン、グリーンらの出場時間が長い状態が続いており、大丈夫かなと思っていたファンも少なくなかったのではないだろうか。KDの怪我はそうした中で起こったとも言えるのかもしれない。

 それが、ヒューストンとの最終戦以降、ポートランドとのカンファレンスファイナルに至るまで、フレッシュなベンチメンバーの投入シーン、活躍シーンが増えた。ポートランドとの最終戦に至っては、マッキニーとともにベルが先発起用されていた! まあ、もともとチャンスがあれば使おうとは思っていたのかもしれないが、カーがどこかで、現状に合わせて方針を切り替えた(リフレッシュした?)、ということなのだろうと思われる。

 個人的には、その際に、カーからベンチプレイヤーたちに何か話があったのだろうかと、そんなどうでもいいことに関心があったりする。カーの現役時代については、ブルズで活躍していた頃しかよくは知らないが、確かブルズでもスパーズでもベンチプレイヤーだったはず。ベンチから出ていってゲームの要所要所で3ポイントなどを決めて優勝に貢献したイメージ? なので、ベンチプレイヤーの気持ちは誰よりも知っているはず。そんなコーチが、出場機会に恵まれないベンチプレイヤー、実際、今回のプレイオフでは途中まで、使われないベンチプレイヤーが多かった状況で、彼らをどんなふうにケアしたのだろかと、素朴な興味を抱いてしまう。

ファイナル・フォーには届かなかったが

 ファイナル・フォーと言えば、この週末(米国時間)に、進出する4校が決まった。第1シード校がバージニア大を除いて全て敗退してしてしまい、少しさびしい気もするが、まあトーナメントってそんなもの。

 そして、今さらだが、この中には八村塁君の所属するゴンザガ・ブルドックスも入っていて、日本でも結構話題になったことが記憶に新しい。負けちゃったなぁ。。

 エリート8の4ゲームは、早朝からの仕事があったり花見の準備があったりで、すべて後半の残り5分くらいからしかライブではみれなかったため、まだあまり多くは語れないが、負けたらこれっきりの大舞台、競ったゲームが多かったし、やはりドラマが詰まっているんだろうなと思った。(ミシガン州立大が勝ったときのマジックの喜びようには、今のレイカーズのチーム状態も関係しているのかな、などと思ったりもした)。

 まあ、カレッジバスケットボールはやはり組織力で戦う面が強くなるから、八村君のいい面がすべて出ているとは思わないけど、ゴンザガ大での経験は、とても得難い貴重なものになるのだろなと思った。チームメイトにも恵まれたようだし、コーチ・フューの影響も大きかったのだろうなと。

 次は、NBA

NBAで流行り始めた(?)ハチマキは、忍者由来か

 最近、NBAでハチマキをしている選手が、ジワリ増えているようだ。ウォリアーズのデミオン・リーや、キングスのディアロン・フォックスなどが巻いていたのは以前から知られていたと思うが、最近、セブンティーシクサーズのジミー・バトラーが巻いているのを見て、おや?と思った。なんか、バトラーだけはハチマキをしそうなキャラには見えない。。

忍者ヘッドバンド? カラテキッド・ヘッドバンド?

 アメリカでは、どうやら「ニンジャ・ヘッドバンド」などと呼ばれているらしい。プレーの中で、忍者パワーを解き放つ効果でも期待しているのだろうか。アメリカで「NARUTO」が人気を博したことなども影響しているのかしら。

 だが、動画検索してみると、下の「カラテキッド・ヘッドバンド」なるタイトルが付けられたものが出てきた。アメリカでも呼び方が定まっていないのだろうか。呼び方が定まるには、まずはヘッドバンドのように着用する選手が定着する必要があるのだろうな。

 


Sweep the League: How 'Karate Kid' Headbands Became an NBA Style Staple

ミニバス選手がよくしてたけど……

 それにしても、ガタイのいいNBA選手がハチマキをしてプレーしているのは、なんだか不思議な感じがする。
 昔、私がミニバスをしていたころ、ハチマキをしてプレーをするチームが多かったことも関係しているのだろう。今はどうかしらないが、昔のミニバスチームでは、選手にハチマキをさせてプレーするチームが少なくなかった。
 そういえば、中学の体育の時間もなぜかハチマキをしていたことを思い出す。クラスごとにカラーが違い、体育祭では、そのカラー同士の戦いとなって、けっこう盛り上がった。

 そんな、“みんなで気合入れてこうよ”を意味するハチマキ文化がバックにあるからだろうか、ハチマキをしたNBA選手が妙に張り切っているように見えて仕方がない。だから、斜に構えた感のするバトラーのイメージとそぐわないような気がしたのか。。

 個人的には、NBA選手よりも、NCAAのファイナル・フォーあたりで、選手全員がハチマキをした大学が出てくるほうがしっくりするような気がしないでもない。

 

プロ入り確実な有望選手が持つ権利、ザイオン負傷で起こった議論が示唆するもの

 2月20日に行われたNCAAの注目の一戦、デューク大対ノースカロライナ大戦で、将来を嘱望される1年生のスター選手ザイオン・ウォリアムソンがシューズの破損で負傷退場するという衝撃の出来事から、はやくも10日近くがたった。


How Zion Williamson's Nike Shoe Might Have Ripped

 今年のNBAドラフトでの全体1位指名が確実と言われている金の卵の残りの大学でのキャリアをめぐり、現在、全米で大論争が起こっていることは知っての通りだ。残りのキャリアといっても、これからまさに1年のクライマックスとなるNCAAトーナメントが始まるという、絶妙なタイミングで起こった論争だった。

NBA入り前にプレー続けるべきか、レジェンドらが白熱した議論

 NBAに入れば、スーパースター候補として輝かしいキャリアが期待できる上、チームからの年俸に加え、シューズ契約を始めその他多くの企業とのスポンサー契約によって巨額の金を稼ぐ選手となることがほぼ確実なのに、ここで大きな怪我でもしてしまったら、それがすべて水の泡になってしまう、だから、NCAAトーナメントだろうがなんだろうが、大学での残りのゲームはプレーしないほうがいいという意見と、いやいや、デューク大に進学し、大学バスケットボールにコミットすると決めたのだから、怪我が治ったら当初の予定通りプレーすべきだという意見がぶつかっているわけだ(NBAドラフトの被指名権を得られるようになるまでの、高卒後の1年間はユーロリーグに来たらいいよ、というドンチッチからの"第三の提案”もあったが)。

 ちなみに、前者の意見はデマーカス・カズンズ(アキレス腱断裂という大怪我から最近やっと復帰できたという自身の身の上もあるのだろう)といったNBAの現役プレイヤーや、スコッティ・ピッペンピッペンはまさにレジェンドといっていい)、トレイシー・マグレディといった往年の名選手から出てきたもの。後者の意見については、最近になってまさにNBAのレジェンドであるコービ・ブライアントがはっきりと主張したことが足元で影響力を及ぼしているようだ。

スター選手の周囲で動く巨額マネー

 こうした議論に注目が集まる背景には、将来有望なアマチュア選手をめぐって巨額のマネーがうごめくアメリカ社会の現状を問題視した議論が、かれこれ30年近く(?)も続いてきたこともあるのだろう。
 スター候補生がいることで、たとえば大学でも高校でも、所属チームのゲーム放映権料、チケット代、シューズなどの用具を含めた様々なスポンサー契約料など、アマチュアスポーツとは言え、多額のお金が動くのは周知の事実。アマチュアというのは選手のみで、大学も企業も大金を稼いでいるわけだ。一方で、選手が受け取れるお金はない(一般的には、奨学金やスポンサー企業から無料支給されるシューズやウェアなどのみ)。

 NCAAがアマチュアリズムの気高さを声高に主張し、そのための厳格なルールを選手らに課してきた一方で、いや、そんなきれいなものじゃないよ、実際にはビジネスだよといった怜悧な見方が多くの支持を集めてきたことに加え、選手だけ(奨学金以外の)保証がないなんて、フェアじゃないよという声も大きくなってきたということなのだろう。

(ちなみに、選手の獲得をめぐっても、奨学金のほかに、学校側から表に出せないお金が動いていると言われているほか、選手にはスポンサー契約を狙う企業などからの"誘惑”も多く、実際にはもっと"怪しい"お金の動きがあると言われている)

高校野球との類似点、甲子園にスター選手が出ないという選択はありか

 こうした話を聞くと、なんだか似た構図の議論が日本にもあるよな、ということに思い至る。そう、高校野球だ。もっとも、選手の身体の酷使を避けるために投手の球数制限を儲けようといった動きですら阻止される日本では、今のところ、こうした議論は沸き起こるべくもないだろう。たとえて言うならば、甲子園大会を前にして、甲子園のアイドルとなりそうな有望選手に、あなたは将来有望でプロ入り後の活躍も間違いないのだから、怪我する恐れのある大会には出るべきでない、と言っているようなものだから。

NCAAトーナメントの人気ぶりは、甲子園の比ではないかもしれない。「マーチマッドネス」と呼ばれる3月のこのトーナメントは、NBAファイナルをもしのぐ人気と注目を集めると言われている)

当の選手は……そりゃNCAAチャンピオン狙ってるはず

 そうは言っても、今回のザイオンをめぐる論争は、もとより選手本人の意向を無視した、行き過ぎた議論だと思わずにはいられない。奇しくも、同じデュークの1年生プレイヤーで今年のNBAドラフトで2位指名が予想されているRJバレットも言うように、「そもそもリスクを負うつもりがないならば彼はデューク大に進学などしないだろうし、何よりも彼はバスケットボール選手なのだ」。本番のNCAAトーナメントを前にして、ほかにもドラフト指名が確実視されるチームメイトが複数いる中で、怪我を回避するために自分だけが棄権するという選択肢は選ぶべくもないだろうし、何よりも(おそらくは)彼はバスケットボール選手として、NCAAチャンピオンを勝ち取ることを狙っているはずだ。

 こんな議論が沸き起こるのも、ザイオン・ウィリアムソンがNBAでスーパースターとして活躍する日を心待ちにするファンが大勢いるということの証なのだろう(同時に、彼との契約や関係構築を狙っている利害関係者も多いのだろう)。

市場拡大でクローズアップされた?  将来の成功で得るものを守る権利

 それにしても、古今東西、"プロ入り”が嘱望される有望アスリートを取り巻く現実はシビアだ。 どんなに有望な選手でも、プロ選手になる前に怪我でキャリアが絶たれたならば、まったく違う人生を歩むことになるのだから。また、幸い怪我を乗り越えてプロ選手になれたとしても、キャリアを通じてそのときの怪我の影響に悩まされるというケースも少なくない。元甲子園投手で肩や肘を酷使した投手などには、こうしたパターンに陥る選手が少なくない。

  スポーツ選手を取り巻くマーケットが拡大する中では、無事にプロ入りできたかできなかったかで生じるギャップも、昔よりも遥かに大きくなっており、だからこそ今回のような議論も生ずるのだろう。

 加えて、選手が将来収めるべき成功、得るべき報酬も選手の権利と考えると、権利意識の強いアメリカでは、こうした議論が熱を帯びるのも頷ける。

 とは言え、私はコービの意見支持派だなぁ。ただ、高校球児の身体酷使を防ぐ手立ては真剣に、早急に考えて導入するべきだと思う。

名将スティーブ・カーの退場劇に秘められた戦略と思いやり

選手を守るための退場劇、「アメイジング」なコーチ

 ゴールデンステート・ウォリアーズのヘッドコーチ、スティーブ・カーが2月14日のポートランド・トレイルブレイザーズ戦で退場を喫した。第4Qに自チームのドレイモンド・グリーンが犯したファウルがフレグラントファイルと判定されたことに対して激しく抗議したことが直接の原因だった。カーにしては珍しく、激した様子で戦術ボードをコートにたたき付け、審判に食い下がって悪態をついていた様子が印象的だった。
 しかし、それまでのゲームの流れと今シーズンのチーム事情を考えると、カーは選手を守るため(特にグリーン)、そして審判の笛がこの試合を通してフェアでなかったことを印象付けるためにあえてそう振る舞ったのかもしれない、と思ったのだった。たとえ1つのゲームを犠牲にすることになっても(オールスターウィークエンド直前で何人かのキープレイヤーを休ませていた試合でもあった)。

 その辺のことは、試合後にカーがグリーンのファウルを「いいファウルだと思った」と発言していることからも伺える。(グリーンも、試合後にカーの振る舞いを「I love that.」「Amazing」と言って感嘆、感謝の気持ちを表している)。

 確かに、グリーンのファウルは、この試合を通しての審判の笛に抗議するというメッセージ性が込められたものと受け止められなくもないものだったと思う。

 


Steve Karr gets ejected after trying to fight with officials GSW vs POR. 02/13/2019

 好ゲームで飛び出したフロッピング……? 

 第4Qにゲームが荒れるまでは、競った内容のいいゲームだった。いや、荒れた展開になってからも、双方、ハイレベルな攻防が続いた好ゲームだった。試合を壊したのは、ひとつには、やはり審判のダブルスタンダードと受け止められてもおかしくない、不可解な判定だろう。
 トレイルブレイザーズのホームコートだったとは言え、審判の笛がウォリアーズの選手に不利なほうに傾いていたという印象は拭えない。
 いくつか鍵になる場面があったのだが、この日のハイライトとして話題になりそうなのが、やはり、4Q残り7分32秒(ウォリアーズ101 :トレイルブレイザーズ104)で、ゴールに向かってドリブルアタックしてレイアップを決めたクレイ・トンプソン(ウォリアーズ)が、ザック・コリンズ(トレイルブレイザーズ)との接触でチャージングを取られ、ノーカウントにされた場面だろう。
 あの場面であんなに飛ばされるの? というくらい若干派手目に吹っ飛んだコリンズの動きを「フロッピング(端的に言うと、演技)」と受け止めたウォリアーズの選手は多かったようだ(ウォリアーズを応援していたので、私も「フロップだ!」と思わず叫んだ)。滅多に激することのないトンプソンがディフェンスに戻る途中でコリンズにトラッシュトークし、それに対し、コリンズが興奮して言い返した(F語を口にしているように見える)ことも、火に油を注いたようだ。


Klay Thompson Very Mad At Zach Collins For Flop Acting | Warriors vs Blazers

 不条理な笛に対する抗議のファウル

 実はその後で、グリーンがJ・クレイマントレイルブレイザーズ)に対して取られたチャージングも(クレイマンによる)フロッピング臭いと言えば言えなくもないプレーだったのだが、こちらはさほど話題にならなかった(だが、その直後にグリーンがコリンズに対してやらかしたファールがフレグラントと判定され、猛抗議したカーの退場につながったことを考えると、グリーンの堪忍袋の緒はこの判定でぷっつり切れてしまっていたとも受け止められる)。

 この場面以外でも、前後半を通し要所要所で、ウォリアーズの面々が「What !?!!!?」と叫んで頭を抱えてしまうようなコールが続いていた。

 トレイルブレイザーズの選手がしたたかで上手かったという側面も否めない。一流選手ならば、審判を味方につける術、ファイルをもらう術を身に着けている必要があるだろうし、目の肥えたファンならば、その辺りの駆け引きもNBAのゲームを楽しむ際のポイントにしていることだろう。この試合でも、D・リラード(トレイルブレイザーズ)のファウルのもらい方は「さすが」と唸らせられるようなものが多かった。

 それに対して、ヌルキッチ(トレイルブレイザーズ)のプレーはいただけなかった。カリーに対してどうでもいい場面でさりげなく足をひっかけて転ばせようとしたり、グリーンの後頭部に肘鉄を食らわせたり・・・個人的には、何よりもヌルキッチに対して「こいつ、ダーティーだな…」という嫌悪感を抱かされた試合だった。

度胸あるタフガイ、試合後に変わったコリンズへの評価

 その一方で、コリンズの方は、ゲーム中はフロッピングの印象がどうしても強く、「小賢しいやつ!」と腹立たしく思っていたのだが、ゲーム全般を通してみると、自身がシュートブロックされた直後の大事な場面で見事なブロックを仕返したり、ウォリアーズのスター選手たちからの執拗なヤジにもたじろがなかったり、普段のインタビュー記事から若いのに計画的でしっかりと人生プランを持った選手というイメージもあったりしたので、冷静にゲームを振り返ったあとでは、「なかなかのタフガイ」「いい度胸してんな」というふうに評価が若干変わった。

 両チームのファンの間でも、コリンズはこのゲームで一気に有名になり、評価が真っ二つに別れたらしい。トレイルブレイザーズファンの間では、「タフガイ!」「よくやった」と持ち上げられ、反対にウォリアーズファンの間では、「クソ生意気な若造」「悪魔のようなフロッパー」としてSNSなどで盛り上がったとのこと。

駆け引きとしての、執拗な野次

 先にも書いたが、ゲーム終盤、頭に血が上ったウォリアーズのスター選手たちは全員ベンチに下げられたのだが、トンプソン、デュラント、グリーンらはけっこう強い口調でコリンズを野次っていた(トンプソンの場合は、「フロッパー!」という執拗な野次が、テレビ越しにも聞こえてきた)

 せっかくいいところまで競ったゲームを失う展開になって悔しかったというのももちろんあるだろうが、ゲームが犠牲になった以上、騒ぎを大きくすることでフロッピング(と自分たちが確信している行為)とそれを行ったと思われる相手選手への注目を否が応でも高め、2度と自分たちとの試合でそんな真似ができないように予防線を張ったという側面が大きかったのではないかとも思う。解説者の塚本氏も言っていたように、シーズンを通してみたときの「駆け引き」に出ていたと受け止めたほうがいいのかもしれない。

 思慮深そうなデュラントがグリーンらと一緒になって大声で野次っていたのも、そんな思惑があってのことだろう。あとは、チームケミストリーを大事にしたという面も少しあったのかな、とも思う。シーズン前半で、自身とグリーンとの激しい口論の後、チームが一時連敗の波から抜け出せなくなるという苦い出来事を経験したこともあり、ここは、フレグラントファウルをとられたグリーンやテクニカルファウルをとられたトンプソンらを諭すよりも、レフェリーやコリンズを野次る方がチームにとっていいと判断したとか(諭そうなんて、最初から思ってなかっただろうけど)。何よりも、カーの退場が、そうした行為をやりやすいものにしたのかもしれない。

逆転劇を演じたかったステフ

 いずれにせよ、そんなふうに騒然とした状況の中、中心選手の中でスティフィン・カリーだけは、静かにベンチに腰を下ろして終始無言だった。デュラントやグリーンのような、抗議したり文句を言ったりする役回りの仲間がチーム内にいてくれるというのもあるのかもしれないが、これはカリーの性格に負うところが大きいのかもしれない。カリーもゲーム中の抗議や乱闘でテクニカル・ファウルをとられたり退場になったりしたことは何度かあるが、駆け引きにせよ、相手選手をずっとなじり続けるというのは、やはりカリーのイメージにあまりそぐわないような気がする。

 ゲームの中でも、ヌルキッチの薄汚いファウル(と私は思う)を受けても、抗議することなく、直後に3ポイントを決め、心なしかゲーム後半はヌルキッチのいるゴール下に向かって切れ込んでいくプレーが多かったようにも思う。心の中は燃えていたということなのだろう。バスケットボールで怒りを晴らしにいったわけだ。

 何よりも、カリーはこの試合、逆転勝利する機会が十分にあると思っていたのだろう。ゲームを通して、カリーのシュートタッチは非常に良かった。それまでの数ゲーム、珍しくシュートを決めきれない場面が多かったこともあり、この試合のカリーはとても気持ちよくプレーしているように見えた。

 カーの退場シーンでも、カリーは首を振って不本意な気持ちを隠さなかった。恐らく、デュラントらと同じくカーの意図を十分すぎるほど理解していたのだろうが、それでも、3分54秒の残り時間と、103対110の得点差(フレグラントファウル分も含めた5点分のフリースローをすべて決められたとしても)自分の3ポイントをもってすれば逆転の芽はあると考えていたのだろう。今まで、3ポイント攻勢で数々のゲームをひっくり返してきた実績があることを考えれば、それも納得できる。

 カリーにとっては、目の前にある勝利の可能性を自分たちから捨ててしまったことがやるせなかったのかもしれない。ファンからみても、決してきれいごとだけではすまされないゲームの駆け引きをみることもまた、それはそれでレアなこととして楽しめるのかもしれないが、何よりも、稀有な能力を持ったプレイヤー同士によるガチンコの真剣勝負の中でしか生まれないドラマチックなゲーム展開をみれることこそ、無上の喜びだと言える。私も、この競った好ゲームの“本当の結末”をみてみたかった。